CROSSOVER− ふたり −

 夏休みになり、北海道に住む祖母のところへ両親と行くことになった。
 あたしが小さかった頃に祖父が亡くなり、その時に行ったきりだ。もうずっと行っていない。
 夏の北海道ではラベンダーがたくさん咲いている。あたしはそれがとても楽しみだった。
 祖母が住んでいるのは自然の豊かな土地で、美しい花々が咲き乱れるところだ。
 写真で幾度か目にしている。家族でのんびり出来るのがうれしい。
 あたしたちは車をレンタルして、祖母の家へ向かう。
 玄関へ出ていた祖母があたしたちを出迎えてくれた。
 今日はたくさんごちそうを作るからねと笑顔で言ってくれる。
 あたしは一度しか会ったことがないはずなのに、何故かずっといっしょにいたような、それでいて懐かしいような奇妙な感覚がしていた。
 家の中へ通され、両親はダイニングルームでくつろぎ始めた。
 あたしもソファに座ろうかなと思った時、祖母がこっちへおいでと声をかけてきた。
 どうやら祖母の部屋を見せてくれるらしい。何故かはわからないが素直についていく。
 祖母の部屋は一階の奥にあり、ドアを空けると壁際にはたくさんの写真が飾られていた。
 その中にはあたしの幼い頃の写真もいくつかありちょっと照れくさいなと思った。
 端のほうに若い女の人と男の人の写真が飾ってあり、妙に惹きつけられる。
 何処かでこの女の人に会ったことがある!!意味もなく確信していた……。
「由良……この写真はね、私とおじいさんが若かった頃のものですよ」
「これ、おばあちゃんなの?へえ…美人だねぇ……」
 おばあちゃんて美人だったんだなぁ……。あれ?じゃあ何で会ったことがあるなんて思ったんだろう?あたし。
「……お前には見覚えがあるのだろう?私の写真に……」
 悪戯っ子のような笑顔で祖母が笑いかける。見覚えがある?ってどうして……??
 あたしは自分の記憶を探り始めた。……でも何も思い出せそうにない。
「どういうこと?」
「おや、封印はちゃんとできているようだね。……まあいい。思い出せないならそれもいいだろう。
 お前にとっては用のない記憶だろうからね。……ちょっと淋しいけれどね……」
 あたしは淋しそうな祖母の顔を見て、ぼんやりと何かを思い出しかけていた。
 誰か、あたしといっしょにいた大切な人……それは……??
「お前に私の名前を教えといてやろう。私の名は遥だ……。
 それでも思い出せなければ封印は永遠に解けないだろうね……」
「はるか……??」
 遠くに押しやっていた記憶の波があたしの中に一変に打ち寄せてくる。
 鮮明な画像を伴って……。渦の中心にいるのはあたし……と遥??あれは遥だ!!
 何で今まで忘れていたの?あんなに大切だった遥を……。
「遥!!!……何故??あたしのおばあちゃんになってるの!!??」
「思い出せたようだね。……そうだよ。あの遥さ。あたしはお前の力を封印した後さらに過去へと遡り、ある人と出会い結婚したのさ。そうしてお前の母さんが生まれた。
 母さんは東京の人と結婚してしまったけどね。そうして生まれた娘に由良と名づけた。
 私はようやくわかった。どうしてお前をひとめ見て懐かしいと思ったのか。
……血の繋がった孫だったからだよ。……おかしなことではあるけどね。
 未来に生まれた私がお前のおばあちゃんになるなんてさ。
 きっとお前のその力は私から遺伝したものだ。母さんにはまったく現れなかったが、お前に受け継がれてしまったのだね。……お前に思い出してもらっただけでうれしいよ」
 そこまで言うと、遥おばあちゃんは奥の引出しから何かを取り出してきた。
 それはいつか聞いた時間転移装置という機械だった。
「これも大切に持ってはいたが、もう必要がないだろうね。
 この通り年をとってしまっては体力が持ちそうにないからね。
……これは本来ならこの時代にはあってはならないものだが、お前に預けることにするよ。
 お前ならきっとこれを生かしてくれるだろうからね。
 いくら壊そうとしても壊れなかったんだよ。だからしまっておいたんだが……。
 あたしが生きてる間はまだいいが、もうこの年だ。いくらも生きてはいられないだろう。
 だからお前がこれを守っておくれ。いつの時代でも悪用するものは現れるからね。
 お前なら大丈夫だ。私のことを思い出した時点で封印も解けたはずだ。
 いざとなったらその力を使って守っておくれ。決して悪用させてはいけないよ。
 この機械も、お前の力もね……」
 遥おばあちゃんの言う通りだった。記憶が戻った時点であたしの中にはあの力が戻っていたのだ。
 まだ使ったことはないからわからないが、たぶんもう暴走することはないだろう。
 あたしには守るべきものができたから……。
「大丈夫。ちゃんと守ってみせるよ。遥おばあちゃん……いいえ……遥……」
 あたしにとってはほんの一時でも友達として過ごした記憶の方が強く残っていた。
 同じ力を持つことを自覚してしまった今は、どこからが本当の記憶なのか何となくわかってしまっている。
 遥おばあちゃんは少し目を潤ませていたが、優しい声で先を続けた。
「力を使うのは、自分や本当に大切な人を守る時だけにできればしておくれ。
 私はやっかいな奴らにつかまりそうになったから仕方なく使ってしまったけれど……。
 今でも由良や桐生の両親に記憶を植え付けたのは、やってはいけないことだったと後悔しているんだよ。
 人の気持ちを記憶だけで操作してはいけないと……そう思ったんだ。
 だから私は力を使うことをやめて、普通の人間として生きてきた。
 幸い、この機械のことは誰にも気づかれずにいたから平穏に過ごすことが出来たしね。
 私は本当に幸せだった。由良やお祖父さんに会えて……本当にありがとう……」
 あたしは機械を受け取った後、遥おばあちゃんを抱きしめた。
 あたしのほうこそ、また会えてうれしかったよ。ありがとう……という思いを込めて。
CROSSOVER− そして未来へ…… −

――由良が遥から預かった時間転移装置は由良の手によって大切に保管された。
 それは昼に見える白い月のような印象を受けたため、『真白の月』と名づけられた。
 保管している箱にはそのように明記してあったため、後の世で発見された時にその名前が通称となったのである。そして物語は始まりへと繋がっていく……。



里くんのリクエストでSF風(?)小説です。
私の中ではこれが限界でした(^^;主役はふたりいます。
それぞれの視点から書いてみました。いかがでしょうか?

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 2003年に学生時代からお世話になっている、翡翠の森の管理人『翡翠』さまから6000HITのキリ番を踏んだのをいいことにわがままを言って強奪した、SF風(?)小説です。
 ありがとうございます!!
 掲載が遅くなって、誠に申し訳なく思っております。
 実は、一度HDが壊れた時に送っていただいたメールごと無くしたという経緯を経ております。
 何だか申し訳ない事ばかり……。
 挿絵もそのうちアップします〜。
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